30秒でわかるこの記事のポイント
- 見積の一次対応は、手順(受付→調査→回答案)より「受けてよい案件か」の判断が要になる
- 判断は「何に着目し、どう見分け、どちらを選ぶか」という問いの形で取り出すと、言葉にしやすい
- 境目の案件、前例のない仕様、金額の決定は、人に返す境界として最初に決めておく
- RAGに判断を載せる部分はお客様ごとの構築で、既製の機能ではない。最終判断は人に残す
製造業の引合い対応では、図面や仕様の問い合わせが届くたびに、ベテランが経験をもとに「これは受ける」「これは断る」を振り分けている場面を想定します。この一次対応をAI社員に任せようと考えたとき、手順書だけでは判断基準を書ききれない場合があります。この記事では、その振り分けの判断をどう言葉にして取り出し、どこで人に返すかを整理します。
なお、本文中の場面は、一般的な利用イメージとして「例えば」の形で書いたものです。実在の企業や事例ではありません。
§ 見積の一次対応で、AI社員に任せる部分
Kneweava AI社員は、これまで人が行っていたタスクをAIが自動で担う「AI社員」を、お客様の業務に合わせて構築し、定着まで伴走するサービスです。引合い・見積の一次対応を例にすると、任せるタスクは次のように切り出せます。
- 仕様の問い合わせを受け付ける
- 過去の類似案件を調べる
- 一次回答の案をつくる
ここまでは手順にできます。順番も確認点も、書き出せば手順書になります。難しいのは、その途中にある「この案件を受けてよいか」「どこから先は条件を付けるか」という判断です。
§ 手順書に残りにくいのは、「受ける・断る」の線引き
例えば、次のような場面を考えます。
- 設備の加工範囲ぎりぎりの寸法が書かれた図面が届く
- 材質の指定が、普段扱っているものと少し違う
- 納期は短いが、既存の工程に空きがあるかもしれない
こうした案件を見て、ベテランは「これは受けられる」「これは断る」「これは確認してから」と判断します。その理由が基準として残っていない場合、何を聞けば言葉にできるかを整理します。
手順の自動化だけでは、自社の判断基準を扱えない場面があります。そこで、判断そのものを取り出して、出典つきでRAGに格納し、AI社員が参照できるようにする、というのが本サービスの考え方です。
§ 判断を取り出す問い:ACTAの着眼点
判断の取り出しには、ACTA(応用認知的タスク分析)の考え方を使います。ポイントは、「何に着目し、どう見分け、どちらを選ぶか」を、具体的な問いの形でうかがうことです。見積の一次対応では、例えば次のような問いが考えられます。
§ 何に着目しているか
- 問い合わせが届いたとき、最初に見る箇所はどこですか?
- 図面や仕様のどの部分で「これは慎重に見よう」と感じますか?
- 取引の経緯や依頼元について、見ておく情報はありますか?
§ どう見分けているか
- 「受けられる案件」と「厳しい案件」は、何の違いで分かれますか?
- 一見すると同じ仕様なのに、受けたものと断ったものがあれば、その差は何でしたか?
- 新人が見落としやすいのは、どの点ですか?
§ どちらを選ぶか
- 迷う案件は、受ける側と断る側の、どちらに倒すことが多いですか?
- 断るとき、どんな理由を伝えていますか?
- 条件を付けて受けるとしたら、どんな条件が多いですか?
これらの問いは、一般的な設計の例です。実際には、御社の工程や設備、取引の事情に合わせて組み替えます。大切なのは、「正解」を最初から決めておくのではなく、判断した人の言葉でうかがうことです。
§ 取り出した判断を、どう使える形にするか
うかがった内容は、そのままでは単なるメモです。AI社員が根拠にできる形にするには、次のように整理します。
- 受けてよい案件の特徴:着目点と、受けてよいと判断する理由
- 断る条件:どの条件に当てはまったら断るか、その理由
- 判断の理由つきの過去の案件:どの判断が、どんな理由で下されたか
- 出典:その判断が、誰のどの説明に基づくか
出典をつけておくと、AI社員が一次回答の案を出したときに、どの判断を根拠にしたのかを人が確かめられます。判断を直したいときも、格納した判断を直す設計にしておけば、AI社員の振る舞いもそれにそって変わります。
§ 人に返す境界を、先に決める
判断を取り出せても、すべてをAI社員に任せるわけではありません。最終判断は人に残します。AI社員は判断の案と根拠を出し、判断できない境界は人に返します。
見積の一次対応では、例えば次の場面は、ベテランが確認する境界として最初に決めておくことが考えられます。
- 受ける条件と断る条件の、境目にある案件
- 前例のない仕様や材質
- 金額の決定
境界は、運用しながら見直します。人が直した判断をRAGに足していくことで、AI社員が扱える範囲を少しずつ広げていく、という進め方です。
§ 当社の運用と、お客様ごとの構築について
正直にお伝えすると、Data Insightが運用しているAIマーケティング社員は、RAGを使っていません。手順と品質ゲートだけで動いています。そのため、ここで書いた「人の判断をRAGに載せてAI社員が参照する」部分は、当社の運用の紹介ではなく、お客様の業務に合わせて一緒に設計する内容です。
人の判断をRAGに格納し、AI社員が参照する部分は、お客様ごとに構築するもので、既製の機能としてお約束するものではありません。また、回答に出典がつき、該当箇所を画面で確かめられるのは、Kneweavaで今できることです。
§ よくある質問
§ Q1. 判断の基準が、頭の中にしかありません。それでも取り出せますか?
ACTAは、熟練者との対話や既存の記録から、着眼点を引き出す手法です。頭の中にある判断も、具体的な案件を題材に問いかけることで、言葉になることがあります。ただし、どこまで言葉にできるかは、業務や担当者によって異なります。
§ Q2. 見積の金額まで、AI社員が決めるのですか?
いいえ。金額の決定は、人に返す境界として決めておくことを想定しています。AI社員が出すのは、一次回答の案と、その根拠です。
§ Q3. まず何から始めればよいですか?
最初から全社に広げず、1つの業務で確かめる進め方をおすすめしています。限定検証では、実際の案件で確かめてから広げることができます。判断が要る場面が多く、いま人への確認が集まっている業務が向いています。
§ まとめ
引合い・見積の一次対応をAI社員に任せるときは、「任せるタスク」「参照する人の判断」「人に返す境界」の3点を決めます。特に、受けてよい案件と断る条件は、「何に着目し、どう見分け、どちらを選ぶか」を問いの形でうかがうことで、言葉にしやすくなります。熟練者の判断を後進へつなぐ考え方は技能継承、判断に根拠を持たせる考え方は根拠ある判断でも紹介しています。